Art-Tech Project Report20180710

【井坂健一郎展】 “玉響(たまゆら)のかをり”


Art-Tech Project Report20180710

【井坂健一郎展】 “玉響(たまゆら)のかをり”


7月4日(水)〜10日(火)の期間、

伊勢丹新宿店5Fのアートギャラリーで開催された

井坂健一郎展】 “玉響(たまゆら)のかをり”に、お邪魔してきました。


ギャラリーに到着した時の最初の印象、

それは

「なんて、心地よく清々しい空間なんだろう」

という、懐かしさにも似た感覚でした。


それは会場へ向かう途中、

5Fフロアのやや遠目からも感じられたことで、

会場に近づくにつれて、

まわりを取り巻く空気感に、微妙な変化がみられたのです。


そんな精妙な場の磁力に誘われ

個展会場に一歩足を踏み入れてみると...


まるで太陽が、

この場所に向かってスポットライトを浴びせるように、

やわらかくあたたかな光が降り注いでいるかのような、

心地よさと穏やかさが、空間に満ち溢れていました。


——————————


白を基調とした明るい空間には、

展覧会のタイトルでもある、

IsakArtの待望の新作「たまゆら」が約40点、

それから

別天水を使って描かれた水彩画「tensei」が

10点、展示されていました。


まず目を奪われたのは、

色とりどりの花々が、チタン製の画の上で、

万華鏡のようなグラデーションを織りなす、

「たまゆら」シリーズの、圧倒的な美しさでした。


一点ごとの作品に向き合い、じっくりと魅入るほどに、

さまざまな感情や記憶が呼び覚まされ

その奥に秘められた、美の真髄に触れられる。

そんな感覚をもたらしてくれたのです。

「たまゆら」は、

勾玉同士が触れ合っている

微かな音を表現した古語で、

「一瞬」、「瞬間」といった意味があるようですが、


作品と対峙していると、

一秒ごとに、新たな瞬間と出会っている。

また同時に、

かけがえのない瞬間を、

変わりゆく自分というものを迎え入れながら

新しい何かが創生され続けている

というような、不思議な気持ちにさせられたのです。

実際に作品を鑑賞する際にも、

自分の立ち位置を左右・前後へと移動させてみたり、

体の向きを自在に変えてみるなど、

さまざまなパターンを試してみたのですが、

その都度、

色のトーンやニュアンスに微妙な変化がみられて

変幻自在のめくるめく表情が

瞬間ごとに、鮮烈に立ち現れてくることが感じられました。

たった一つの作品のなかにも

これほどまでに多くの発見がある。


そして、作品の中に

もう二度と、永遠に戻ってくることのない

“一期一会”の巡り合わせがある、と

静かではあるけれど心の奥の感情を揺さぶられ、

しばしその場に呆然と立ち尽くしてしまいました。


井坂先生

作品を製作される際の心がまえとして、

「常に、“中今”を逃さないように、

今この瞬間を投影できるように、作品と向き合っています」

と、おっしゃいます。

とくに「たまゆら」シリーズは、

静謐な闇の空間のなかで

ガラスの上に色鮮やかな造花を配置、

(私は被写体が造花であることにも驚き、

こちらについても新たな発見がありました)

その後、被写体に向かって光を当てて

一枚一枚丹念に、じっくりと撮影に臨まれたそう。

さらにシャッタースピードも

通常の8分の1の速度まで落とし

スローダウンさせることによって

被写体の花は、めいっぱい光をとり込み、

花々のまわりに

たゆたうような独自の風合いと

おぼろげなニュアンスが醸し出される、のだと。

このような独自の表現について井坂先生は、

「このインクが滲んでいように見える独自の風合いは、

人によっては水墨画のような趣に感じられるのかも知れません。

そういう意味では、

花の配置についても、ある種の絶対感覚のようなものに従って

光をどのように操り、被写体とのバランスのなかでどう見せていくか。

さらには、書道や絵画でいうところの余白、間合いというものを

どう表現していくか、ということに重きを置いて

丁寧にシャッターを切っています。

実はこの方法は非常にアナログ的で、

一見すると骨の折れる工程なのかも知れません。

しかし、デジタル技術がここまで発達し

明度やクリアバランス、光の操作を技術を駆使して

いくらでも加工ができる時代だからこそ、

アナログができる領域にアーティスト自身が、

そして作品自体の真価といったものが

立ち現れてくるのではないか、と思っています。

そして常に"中今"をつかみ、その瞬間のエネルギーを

作品のなかに最大限、注ぎ込めるように。

そうした想いで、一点一点の作品に大切に向き合っています」と

製作を振り返ってのエピソードを、

語ってくださいました。

朝夕の光の変化や光源の種類、

また鑑賞する角度によって

変幻自在にグラデーションを織りなす

チタン独自の美しい発色の上で、

人工としてのモノである、「造花」モティーフにたしかな命を吹き込み、

虚実を、生死を、過去・現在・未来を往来しながら、

あらゆる境界線やボーダーラインを超えて

“中今”という一点へ統合、

すべての要素・概念を結んでゆくIsakArtの魅力。

匂い立つような作品の美に、

ぜひ触れていただきたいと思います。

さて、この「たまゆら」シリーズのほかにも、

別天水に絵の具を溶いて描いた水彩画、

「tensei」シリーズのお披露目もありました。

井坂先生によると、

むやみに筆を走らせるようなことはしない。

ただ無心になって、

意識をゼロポイントにして、

紙の上に筆を置いていった。

とおっしゃいますが、

こちらも

「たまゆら」シリーズとは

また違った、中今の表現に出会うことができます。

水と絵の具が、

真っ白な紙のなかで

美しく、精妙に、きわめて自然体に溶け合うさまは、

作品を目の前にその場に佇んでいるだけで、

心に深くじっくりと、奥へと染み入るよう。

水という脈動する生命が、

自在にかたちを変え

流転を繰り返しながらうごめいているような

みずみずしい清涼感と、

今にも音を奏でそうな躍動感にハッとさせられる作品群。

自然をじかに感じられるような本作も

ぜひ、またの機会に体感していただけたら嬉しく思います。